令和2年4月に施行される民法(債権法)改正の主な概要
◆保証人の保護の拡充
個人が保証人になる場合の保証人の保護を進めるため、次のように改正されます。
◎包括根保証の禁止の対象拡大
個人(会社等の法人でない者)が貸金等債務以外の根保証契約※を締結する場合も、保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ、保証契約は無効となります。
※「根保証契約」とは一定の範囲に属する不特定の債務を保証する契約をいいます。
例えば、住宅等の賃貸借契約の保証人となる契約などが根保証契約に該当することがあります。
◎事業用融資における第三者保証の制限(公証人による保証意思確認手続の新設)
会社や個人である事業主が融資を受ける際、その事業に関与していない親戚や友人などの第三者が保証人になろうとする場合について、公証人による保証意思確認の手続を新設し、この手続を経ないでした保証契約は無効となります。
手続きは、保証人になろうとする者が保証意思宣明公正証書を作成し、自ら公証人の面前で保証意思を述べる必要があります。
なお、主債務者の事業と関係の深い者※については、意思確認の手続きが不要とされています。
※①主債務者が法人である場合は、理事や取締役、執行役、議決権の過半数を有する株主等、②主債務者が個人である場合は、共同事業者や主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者が該当します。
◆消滅時効の見直し
消滅時効とは、債権者が一定期間権利を行使しないことによって債権が消滅するという制度をいい、債権が消滅するまでの期間(消滅時効期間)は、原則として権利を行使できる時から10年間ですが、例外的に職業別の短期消滅時効(飲食代金は1年、弁護士報酬は2年、医師の診療報酬は3年など)が設けられていました。
改正により、職業別の短期消滅時効を廃止し、原則として「権利を行使することができることを知った時から5年間」に統一します。
※債権者が権利を行使できることを知らないような債権については、「権利を行使することができる時から10年」となります。
◆定型約款に関する規定の新設
不特定多数の顧客を相手方として取引を行う事業者などがあらかじめ詳細な契約条項を「約款」として定めておき、この約款に基づいて契約を締結することが少なくありませんが、民法には約款を用いた取引に関する基本的なルールが定められていませんでした。
改正では、新たに「定型約款」に関して、次のようなルールを新しく定めています。
◎定型約款が契約の内容となるための要件
定型約款を契約の内容にするためには、①当事者間で定型約款を契約の内容とする旨の合意をした場合や、②定型約款を契約の内容とする旨を顧客に「表示」して取引を行った場合は、顧客が定型約款にどのような条項が含まれるのかを知らなくても、個別の条項について合意をしたものとみなされます。ただし、信義則に反して顧客の利益を一方的に害する不当な条項は、認められません。
◎定型約款を変更する場合のルール
定型約款の変更は、①変更が顧客の一般の利益に適合する場合や、②変更が契約の目的に反せず、かつ、変更に係る諸事情に照らして合理的な場合に限って認められます。
顧客にとって必ずしも利益にならない変更については、事前にインターネットなどで周知をすることが必要です。
◆法定利率の見直し
契約の当事者間に貸金等の利率や遅延損害金に関する合意がない場合に適用される「法定利率」が市中金利を大きく上回る状態が続いていることから、年3%(現行5%)に引下げます。
また、市中の金利動向に合わせて法定利率が自動的に変動する仕組みを新たに導入します。
◆ルールの明文化
裁判や取引の実務で通用している基本的なルールであるものの、民法の条文には明記されていなかったものを明文化する改正が多数行われており、例えば、次のようなルールが明記されました。
・賃貸借について、①敷金は賃貸借終了時に賃料などの債務の未払分を差し引いた残額を返還する、②借主は通常損耗や経年変化について原状回復をする必要はないことを明記。
・認知症などにより意思能力(判断能力)を有しない者がした法律行為(契約など)は無効であることを明記。