本年7月10日に開始される「法務局における自筆証書遺言の保管制度」
◆自筆証書遺言と公正証書遺言
遺言の方式には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言があります。自筆証書遺言は自書さえできれば本人のみでいつでも作成することができ、手軽で自由度の高い制度ですが、内容に不備があることで問題になるケースもあります。なお、相続法改正により、自筆証書遺言を作成する際、相続財産の全部又は一部の目録(財産目録)を添付する場合は、その財産目録については自書しなくてもよいことになりました。
一方、公正証書遺言は、公証人の関与の下で、2人以上の証人が立ち会うなど厳格な方式に従って作成され、公証人が原本を厳重に保管する信頼性の高い制度です。遺言の内容について公証人の助言を受けながら遺言を作成できますが、財産の価額に応じた手数料がかかります。
◆自筆証書遺言に係る保管制度の概要
現状、自筆証書による遺言書は自宅で保管されることが多く、紛失や亡失のおそれや、遺言者が死亡後に発見されないことや、相続人等により遺言書の廃棄、隠匿、改ざんのおそれがあるなどの問題がありました。こうした問題によって相続をめぐる紛争が生じることを防止し、自筆証書遺言をより利用しやすくするため、法務局で自筆証書遺言を保管する制度が創設されます。
◎遺言書の保管の申請
保管の申請の対象となるのは、自筆証書遺言に係る遺言書で、省令で定められた様式に従って作成されたものでなければなりません。
本制度は、全国の法務局(遺言書保管所:312か所)で取り扱われ、遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所に保管の申請ができます。
遺言書の保管の申請手続きは、遺言者本人が遺言書保管所で行う必要があります。
※保管の際、遺言書保管官として指定された法務事務官が、遺言の内容について相談に応じることはありません。また、本制度は保管された遺言書の有効性を保証するものではありません。
◎遺言者による遺言書の閲覧、保管の申請の撤回
保管の申請がされた遺言書については、遺言書保管官が遺言書保管所において原本を保管するとともに、その画像情報等の遺言書に係る情報を管理することとなります。
遺言者は、保管されている遺言書について、閲覧の請求や遺言書の保管の申請を撤回することができます。保管の申請が撤回されると、遺言者に遺言書を返還し遺言書に係る情報を消去します。
なお、遺言者の生存中は、遺言者以外の方は、遺言書の閲覧等を行うことはできません。
◎遺言書の保管の有無の照会
遺言者の死亡後、相続人等は遺言書保管事実証明書の交付を請求し、自己(請求者)が相続人や受遺者等となっている遺言書が遺言書保管所に保管されているかどうかを確認することができます。
交付の請求は、全国のどの遺言書保管所でもできます。
◎相続人等による証明書の交付請求や閲覧請求
遺言書が保管されている場合、相続人等は遺言書の内容の証明書(遺言書情報証明書)の交付請求や、遺言書の閲覧請求をすることができます。閲覧方法は、モニターによる遺言書の画像等の閲覧、又は遺言書の原本の閲覧となります。
遺言書情報証明書の交付請求やモニターによる閲覧請求は全国どの遺言書保管所でもできます。遺言書原本の閲覧請求は保管されている遺言書保管所でのみ可能です。
なお、相続人等が遺言書情報証明害の交付又は遺言書の閲覧をした場合は、遺言書保管官はその者以外の相続人等に対して遺言書を保管している旨を通知します。
◎遺言書の検認の適用除外
遺言書保管所に保管されている遺言書については、遺言書の検認の規定は、適用されません。
◎手続きの予約制について
本制度は、遺言書の保管の申請、閲覧の請求等の遺言書保管所で行う全ての手続きについて予約が必要となります。予約の方法は、法務局手続案内予約サービスの専用HPや、手続きを行う予定の法務局(遺言書保管所)への電話又は窓口における予約となります。※令和2年7月1日から予約を開始予定
◎申請等における手数料
遺言書の保管の申請 : 1通につき3,900円、遺言書の閲覧請求 : 1回につきモニター1,400円・原本1,700円、遺言書情報証明書の交付請求 : 1通につき1,400円、遺言書保管事実証明書の交付請求 : 1通につき800円、の手数料を納める必要があります。