相続税の節税目的による養子縁組に係る最高裁判決の概要
◆養子縁組無効確認請求事件の最高裁判決の概要
1.原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1)被上告人X1は亡Aの長女であり、被上告人X2はAの二女である。
上告人は、平成23年▲月、Aの長男であるBとその妻であるCとの間の長男として出生した。
Aは、平成24年3月に妻と死別した。
(2)Aは、平成24年4月、B、C及び上告人と共にAの自宅を訪れた税理士等から、上告人をAの養子とした場合に遺産に係る基礎控除額が増えることなどによる相続税の節税効果がある旨の説明を受けた。その後、養子となる上告人の親権者としてB及びCが、養親となる者としてAが、証人としてAの弟夫婦が、それぞれ署名押印して、養子縁組届に係る届書が作成され、平成24年▲月▲日、世田谷区長に提出された。
2.本件は、被上告人らが、上告人に対して、本件養子縁組は縁組する意思を欠くものであると主張して、その無効確認を求める事案である。
3.原審は、本件養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたものであるとした上で、かかる場合は民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとして、被上告人らの請求を認容した。
4.しかしながら、民法802条1号の解釈に関する原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
養子縁組は、摘出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組する場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。そして、前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
5.以上によれば、被上告人らの請求を認容した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、被上告人らの請求は理由がなく、これを棄却した第1審判決は正当であるから、被上告人らの控訴を棄却すべきである。
【参考】
相続税は、被相続人から相続などによって財産を取得した人それぞれの課税価格の合計額(相続税が課される財産の価額から、相続財産の価額から控除できる債務と葬式費用の価額を差し引いた金額)が、「遺産に係る基礎控除額」を超える場合、その財産を取得した人は、相続税の申告をする必要があります。
平成27年1月1日以後の相続等により取得する財産に係る基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」となります。
◆養子縁組によるメリット
養子が加わることで法定相続人の数が増えれば、相続税に基礎控除額が増加します。
また、死亡保険金や死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が増加します。
ただし、法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいるときは1人(実子がいないときは2人)までとなります。
◆養子縁組によるデメリット
相続税対策で養子縁組をすると本来実子が受け取れるはずだった相続財産を養子に分けることになるため、実子の取り分が減ってしまうことになり、遺産分割がまとまらない場合があります。
また、孫を養子にすると孫養子の相続税は20%加算されます(子が先に死亡して孫が代襲相続する際は、相続税の2割加算はされません)。