インボイス制度実施後の免税事業者との取引に係る対応
◆インボイス制度の概要
令和5年10月1日から、仕入税額控除の方式として「適格請求書等保存方式」(いわゆる「インボイス制度」)が導入されることにより、適格請求書発行事業者から交付を受けた「適格請求書等」の保存が仕入税額控除の要件となります。
適格請求書を交付できるのは、納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出し、登録を受けた課税事業者(適格請求書発行事業者)に限られるため、免税事業者などの適格請求書発行事業者以外の者からの仕入れは仕入税額控除を行うことができませんが、取引への影響に配慮してが設けられており、制度導入後6年間は、仕入税額相当額の一定割合(令和5年10月1日~令和8年9月30日までは仕入税額相当額の80%、令和8年10月1日~令和11年9月30日までは仕入税額相当額の50%)を仕入税額とみなして控除できます。
なお、課税事業者が簡易課税制度を選択している場合は、インボイス制度の実施後も売上げに係る消費税額に一定割合(みなし仕入率)を乗じて仕入税額控除を行うことができるため、仕入れの際にインボイスを受け取り、それを保存する必要はありません。
◆インボイス制度実施後の免税事業者との取引に係る独占禁止法等の問題行為
簡易課税制度を適用していない課税事業者が仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すこと自体は直ちに問題となるものではありませんが、見直す際は、独占禁止法・下請法・建設業法により問題となる行為を行わないよう注意が必要です。
【取引対価の引下げ】
取引上優越した地位にある事業者(買手)が、免税事業者との取引において、仕入税額控除できないことを理由に取引価格の引下げを要請し、再交渉において双方納得の上で取引価格を設定すれば問題となるものではありませんが、再交渉が形式的なものにすぎず、事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として問題となります。また、仕入先が要請に応じて免税事業者から課税事業者となった際に、仕入先が納税義務を負うこととなる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合についても同様です。
【商品・役務の成果物の受領拒否等】
取引上優越した地位にある事業者(買手)が、仕入先から商品を購入する契約をした後、仕入先がインボイス発行事業者でないことを理由に商品の受領を拒否することは、優越的地位の濫用として問題となります。
【協賛金等の負担の要請等】
取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対し、取引価格の据置きを受け入れる代わりに、取引の相手方に別途、協賛金、販売促進費等の名目で金銭の負担を要請することは、当該協賛金等の負担額及びその算出根拠等について、仕入先との間で明確になっておらず、仕入先にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合などには、優越的地位の濫用として問題となります。
【購入・利用強制】
取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対し、取引価格の据置きを受け入れる代わりに、当該取引に係る商品・役務以外の商品・役務の購入を要請することは、仕入先が事業遂行上必要としない商品・役務であり、又はその購入を希望していないときであったとしても、優越的地位の濫用として問題となります。
【取引の停止】
事業者がどの事業者と取引するかは基本的に自由ですが、取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対して、一方的に、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格など著しく低い取引価格を設定し、不当に不利益を与えることとなる場合であって、これに応じない相手方との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあります。
【登録事業者となるような態通等】
課税事業者がインボイスに対応するために取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請すること自体は問題となるものではありませんが、それにとどまらず、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。