相続税の申告期限までに遺産分割が行われていない場合は
◆相続税の申告と納税
相続税は、被相続人から相続や遺贈によって取得した財産および相続時精算課税の適用を受けて贈与により取得した財産の価額の合計額(債務や葬式費用などの金額を控除し、相続開始前3年以内の暦年課税に係る贈与財産の価額を加算)が、遺産に係る基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、その超える部分(課税遺産総額)に対して課税されます。
この場合、相続税の申告をする必要があるため、相続の開始があったことを知った日(通常の場合は、被相続人が亡くなった日)の翌日から10ヵ月以内に、被相続人の住所地を所轄する税務署に相続税の申告書を提出するとともに、納付税額が算出される場合は納税しなければなりません。
【相続税の計算】
①課税遺産総額を、各法定相続人が民法に定める法定相続分に従って取得したものとして、各法定相続人の取得金額を計算します。
②①に税率を乗じて算出した各法定相続人ごとの税額を合計し、相続税の総額を計算します。
③相続税の総額を各相続人等が実際に取得した財産の割合に応じて按分します。
④各相続人等の税額から配偶者の税額軽減などの各種の税額控除額を差し引いた残額が各人の納付税額になります。
◆遺産分割が行われていない場合の申告
被相続人から各相続人等が相続や遺贈などにより取得した財産の課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合は相続税の申告が必要となりますが、申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内)までに遺産分割が決まっていない場合であっても期限までに申告しなければなりません。そのため、遺産分割協議が成立していない場合は、各相続人などが民法に規定する法定相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税の計算をし、申告と納税をすることになります。
その際、相続税の特例である配偶者の税額軽減(配偶者控除)※や小規模宅地等の特例※などが適用できない申告になりますので注意が必要です。
※配偶者の税額軽減は、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した財産が、①1億6千万円、②配偶者の法定相続分相当額、のどちらか多い金額までであれば配偶者に相続税はかからない制度です。
※小規模宅地等の特例は、相続や遺贈によって取得した財産のうち、被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等がある場合は、一定の要件の下に、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定割合を減額する制度です。
◎申告後に遺産分割が行われた場合
法定相続分または包括遺贈の割合で申告した後に、遺産分割が行われ、その分割に基づき計算した税額と申告した税額とが異なる場合は、実際に分割した財産の額に基づいて修正申告または更正の請求をすることができます。
修正申告は、当初申告した税額よりも実際の分割に基づく税額が多い場合にすることができます。更正の請求は、当初申告した税額よりも実際の分割に基づく税額が少ない場合にすることができます。ただし、修正申告と異なり、更正の請求ができるのは、分割のあったことを知った日の翌日から4カ月以内となっています。
◆申告期限までに遺産分割が行われていない場合の各種特例の適用手続
相続税の申告期限までに遺産分割が行われていない場合、その申告時には配偶者の税額軽減(配偶者控除)や小規模宅地等の特例などの適用を受けることはできませんが、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出しておき、相続税の申告期限から3年以内に分割された場合には、特例の適用を受けることができます。この場合、分割が行われた日の翌日から4ヵ月以内に更正の請求を行います。
なお、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日において相続等に関する訴えが提起されているなど一定のやむを得ない事情がある場合において、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、その申請につき所轄税務署長の承認を受けた場合には、判決の確定の日など一定の日の翌日から4ヵ月以内に分割されたときに特例の適用を受けることができます。適用を受ける場合は、分割が行われた日の翌日から4カ月以内に更正の請求を行います。