経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた「経営者保証改革プログラム」
中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となる「経営者保証」は、経営の規律付けや信用補完として資金調達の円滑化に寄与する面がある一方で、スタートアップの創業や経営者による思い切った事業展開を躊躇させる、円滑な事業承継や早期の事業再生を阻害する要因となっているなど、様々な課題も存在します。
このような課題の解消に向け、これまでも経営者保証を提供することなく資金調達を受ける場合の要件等を定めた「経営者保証ガイドライン」の活用促進等の取組を進めてきましたが、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を更に加速させるため、経済産業省金融庁・財務省による連携の下、①スタートアップ・創業、②民間金融機関による融資、③信用保証付融資、④中小企業のガバナンス、の4分野に重点的に取り組む「経営者保証改革プログラム」を令和4年12月23日に策定・公表しました。
「経営者保証改革プログラム」で取り組む主な施策
1.スタートアップ・創業(経営者保証を徴求しないスタートアップ・創業融資の促進)
創業時の融資において経営者保証を求める慣行が創業意欲の阻害要因となっている可能性を踏まえ、起業家が経営者保証を提供せず資金調達が可能となるよう、経営者保証を徴求しないスタートアップ・創業融資を促進します。
① 創業予定者や創業後5年未満の法人などを対象に、経営者保証を不要とする新しい信用保証制度として「スタートアップ創出促進保証制度」(保証限度額:3,500万円、保証期間:10年以内、保証料率:創業関連保証の保証料率に0.2%上乗せ、担保:不要、保証割合100%)を創設。なお、本制度を利用した方は原則、法人設立から3年目と5年目に中小企業活性化協議会による「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」に基づいた確認および助言を受けることが必要となる。【令和5年2月20日から事前相談の受付開始、令和5年3月中に制度開始予定】
②日本公庫等において、創業から5年以内の者に対する経営者保証免除特例制度の要件を緩和。
【令和5年2月〜】
2.民間金融機関による融資(保証徴求手続の厳格化)
金融機関の監督指針を改正し、保証を徴求する際の手続きを厳格化することで、安易な個人保証に依存した融資を抑制するとともに、事業者・保証人の納得感を向上させます。
① 金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合には、保証契約の必要性等に関し、事業者・保証人に対して個別具体的に「どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか」、「どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか」の説明をすることを求めるとともに、その結果等を記録することを求める。
② 【令和5年4月~】
③ 上記1の結果等を記録した件数を金融庁に報告する。【令和5年9月期実績報告分より】
④ 金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置し、事業者等の相談を受付ける。【令和5年4月〜】
3.信用保証付融資(経営者保証の提供を選択できる環境の整備)
経営者保証ガイドラインの要件(①法人・個人の資産分離、②財務基盤の強化、③経営の透明性確保)を充たしていれば経営者保証を解除する現在の取組を徹底した上で、経営者保証ガイドラインの要件のすべてを充足していない場合でも、経営者保証の機能を代替する手法(保証料の上乗せ、流動資産担保)を用いることで、経営者保証の解除を事業者が選択できる制度を創設します。
① 信用保証制度において、経営者の取組次第で達成可能な要件(法人から代表者への貸付等がないこと、決算書類等を金融機関に定期的に提出していること等)を充足すれば、保証料の上乗せ負担(事業者の経営状態に応じて上乗せ負担は変動)により経営者保証の解除を選択できる信用保証制度を創設。【令和6年4月〜】
② 流動資産(売掛債権、棚卸資産)を担保とする融資(ABL)に対する信用保証制度において、経営者保証の徴求を廃止。【令和6年4月〜】
③信用収縮の防止や民間における取組浸透を目的に、プロパー融資における経営者保証の解除等を条件に、プロパー融資の一部に限り、借換を例外的に認める保証制度「プロパー借換保証」の時限的創設。【令和6年4月〜】
4.中小企業のガバナンス(ガバナンス体制の整備を通じた持続的な企業価値向上の実現)
経営者保証解除の前提となるガバナンスに関する中小企業経営者と支援機関の目線合わせを図るとともに、支援機関向けの実務指針の策定や、中小企業活性化協議会の機能強化を行い、官民による支援態勢を構築します。